◆真に「買うべき馬」はどっち？

東京大学卒の競馬ライター・鈴木ユウヤが人気馬2頭のうち、真に「買うべき馬」はどちらかを見極める「東大流・GⅠ二者択一」。
今回は桜花賞（GⅠ・阪神芝1600m）が対象。クイーンCを快勝したエンブロイダリーと2歳女王アルマヴェローチェの対決に焦点を絞って、「能力評価」と「レース条件評価」の両面から徹底検討する。

【能力評価】

エンブロイダリーはこれまで5戦3勝。まず敗れた2回に注目すると、新馬戦はマイルで1000m通過62.7秒の超スローペースからラスト11.0-10.9の極限キレ味勝負で前を差し損ねたもの。サフラン賞は出遅れて後方で包まれ、完全に仕掛け遅れて脚を余していた。どちらも力負けではない。

勝ったレースは未勝利戦が逃げて上がり最速のレコードV、1勝クラスは後のフィリーズレビュー3着馬ボンヌソワレを撃破と価値が高く、そしてなんといってもクイーンCが優秀だった。前半3F34.2秒のハイペース、その後11.5-11.5-11.5と道中もタイトに流れ、他の先行勢が失速していくのを尻目に2馬身半差の完勝。勝ち時計1:32.2は3歳3月以前のマイル戦としては史上最速であり、阪神JF6着コートアリシアン、同4着ショウナンザナドゥといった実力馬をまるで相手にしなかった。レースレベルが極めて高い。

対するアルマヴェローチェは札幌2歳Sで牡馬相手に2着。開催最終週、外伸びのトラックバイアスに反するイン突きで力を見せた。阪神JFは外差し有利の展開と馬場に乗じたとはいえ、ラスト11.5-11.4の加速ラップを差し切り勝ち。GⅠ馬に相応しい能力を持っている。

甲乙つけがたいが、エンブロイダリーのクイーンCが不利な展開をモノともしない勝利で時計的インパクトも絶大だったのと比べると、アルマヴェローチェの阪神JFは展開も味方したもので特筆する事項が乏しい。能力評価ではエンブロイダリーを上とする。

【レース条件評価】

両者ともに阪神は初コース。エンブロイダリーはこれまで4度の連対いずれも左回りで、一度だけ右回りに出走したサフラン賞で5着に敗れている。ただ、前記の通りサフラン賞は仕掛け遅れが全てで、走り自体に左右差があるわけではない。懸念は週末の雨予報。道悪は未経験だが、クイーンCで高速馬場に抜群の適性を示しただけに、軽い馬場でやれた方が相対的に有利だろう。

アルマヴェローチェは父ハービンジャーの持続力タイプ。札幌では自身の上がり36.0秒、36.3秒というタフな競馬で好走した反面、上がり33秒台あるいは1F11秒台前半のトップスピードが必要な競馬はまだやっていない。上がり勝負になりやすい阪神外回りには不安を残す。

ちなみにハービンジャー産駒は京都芝1600m（外回り）の重賞で通算【3-2-3-8】複勝率50.0％、単回収率228％、複回収率149％と圧倒的な京都適性を誇る一方、阪神芝1600m重賞では【2-0-0-18】と結果が出ていない。アルマヴェローチェにとって、阪神JFの京都代替が大きな後押しとなったのは間違いない。コース替わりは減点材料だ。ただし雨が降れば降るほど、対エンブロイダリーの天秤はこちらに傾く。

レース条件評価でも基本的にはエンブロイダリーの方に軍配が上がる。当日あまりにも雨が降るようなら再考が必要になる。

【結論】

○エンブロイダリー
クイーンCの時計が超優秀。負けたレースには能力以外の明確な敗因あり。高速馬場なら優位性増す。

●アルマヴェローチェ
GⅠ馬に相応しい能力はある。ただし持続力勝負や京都コースがベターな血統で阪神外回りへのコース替わりは減点材料。雨は歓迎。

したがって、今回はエンブロイダリーを「買うべき馬」に選定します！

※前日の馬場状態まで考慮した最終結論は「競馬ナイト」（https://keiba-night.com/）で公開

【了】

（文●鈴木ユウヤ）

<プロフィール>
鈴木ユウヤ（@ysuzuki_keiba）
東京大学卒業後、編集者を経てライターとして独立。中央競馬と南関東競馬をとことん楽しむために日夜研究し、Xやブログ『競馬ナイト』で発信している。「ワイド1点買い」の使い手。2024年の中央GⅠで回収率130％を達成。

【関連記事】
・【桜花賞走破タイムトップテン】牝馬クラシック一冠目。桜の女王決定戦を最速で駆け抜けたのは？
・オカルトデータ研究室…桜花賞編「セール出身以外の馬が勝利(4年連続)」導き出された推奨馬は？
・【桜花賞有力馬診断】評価上位は大混戦？アルマヴェローチェのG1連勝か…新勢力の台頭か…