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キタサンブラック 〜北島三郎に愛され、ファンに愛されつづけるド根性ホース~

text by 中西友馬

キタサンブラック(Kitasan Black)

いかにして、わずか350万円で取引されたサラブレッドが、菊花賞制覇から天皇賞春秋連覇を含むG1・7勝の偉業を達成したのか。引退後は種牡馬として、イクイノックスなど5頭のG1馬を輩出し、競馬界の常識を覆し続けるド根性ホースの歩みとは。

kitasanblack

プロフィール

性別 牡馬
ブラックタイド
シュガーハート
生年月日 2012年3月10日
馬主 大野商事
調教師 清水久詞
生産牧場 ヤナガワ牧場
通算成績 20戦12勝【12-2-4-2】
獲得賞金 18億7684万円
主な勝ち鞍 ジャパンカップ(2016年)
天皇賞(秋)(2017年)
有馬記念(2017年)
受賞歴 JRA賞年度代表馬(2016、2017年)
最優秀4歳以上牡馬(2016、2017年)
産駒成績 産駒デビュー年:2021年
通算重賞勝利数:13勝
通算G1勝利数:6勝
代表産駒 イクイノックス(2023年ジャパンカップ)
ソールオリエンス(2023年皐月賞)

常識を覆したスタミナお化け

 キタサンブラックは、2015年の1月に東京競馬場でデビューした。2歳の夏から新馬戦が始まり、続々とデビューしていく中、この馬はデビューが3歳になってからと比較的遅かった。父はディープインパクトの全兄ブラックタイド、母シュガーハートは未出走だった。そこまでの良血馬とは言えず、購入価格は350万円というサラブレッドとしては安価なものであった。デビュー戦での人気も3番人気に甘んじていたが、中団から鋭く伸びて勝利を収めた。逃げ馬のイメージが強いキタサンブラックだが、意外にも初戦は中団からの差し切り勝ちであった。

 2戦目も同じく東京競馬場で行われた500万下の平場レースであった。初戦から一転、2番手から抜け出す競馬で快勝。デビュー戦よりさらに人気薄である9番人気での勝利であった。3戦目は重賞初挑戦となったスプリングS。既に重賞勝ちやG1勝ちのある馬が上位人気を占める中、ここも早め先頭から後続を完封しての3連勝。

 年明けデビューながら、皐月賞の舞台に駒を進めることとなる。ここでも同じように2番手からの競馬で挑み3着となる。東京優駿(日本ダービー)では、デビューから休みなく使われた疲れとハイペースに巻き込まれたこともあって14着に敗れるも、夏を経たセントライト記念では、重賞初制覇を果たす。

 そして迎えた牡馬3冠最後の菊花賞。春の2冠馬ドゥラメンテが離脱して混沌としたレースで、キタサンブラックも有力馬の1頭であったが、懸念材料もあった。キタサンブラックの母シュガーハートは未出走だったが、その父はサクラバクシンオーという天才スプリンターであった。その血を受け継いでいるキタサンブラックに、菊花賞の3000mは長いという声もあった。レースは速めの流れとなったこともあり、キタサンブラックはいつもより少し後ろの位置どり。直線では内にこだわって進路を確保し、クビ差の勝利。初の3000m+スタミナの問われるペースでも力を発揮して、戦前の不安説を一蹴した。

 続く有馬記念はデビュー以来初めての逃げる競馬。3着に敗れるも手ごたえをつかむレースとなった。年が明けて4歳となったキタサンブラックは、大阪杯で武豊騎手と初のコンビを組む。斤量差のぶんゴール前で差されての2着となるが、続く天皇賞(春)では無尽蔵のスタミナを発揮し、ゴール前で差し返して勝利した。宝塚記念では、怪我から復帰したドゥラメンテとダービー以来の対決に挑むも、マリアライトに敗れて3着に終わった。脚部不安を再発したドゥラメンテは、この宝塚記念2着を最後に引退した。

 夏を経て、京都大賞典とジャパンカップを連勝したキタサンブラックは、有馬記念に出走する。ここで初対決となったのが、ひとつ下の世代で同じく菊花賞を勝っていたサトノダイヤモンドであった。逃げるキタサンブラックをゴール前でサトノダイヤモンドが交わし、初対決はサトノダイヤモンドに軍配が上がった。

 年が明けて5歳になったキタサンブラックは、この年からG1に格上げとなった大阪杯を勝利し、天皇賞(春)でサトノダイヤモンドと再び相見えることとなる。スタミナ勝負で負けるわけにはいかないキタサンブラックが日本レコードで勝利し、見事リベンジを果たした。

 続く宝塚記念では9着に敗れたが、夏を経て天皇賞(秋)に出走する。雨が降り続き不良馬場となった一戦で、キタサンブラックはスタートで出遅れて後方からの競馬となってしまった。しかし3コーナーから内をスルスルと浮上すると、直線入り口ではいつの間にか先頭に立つ。最後は宝塚記念を勝った雨巧者サトノクラウンの追い上げをクビ差しのいで勝利。2分08秒3という勝ち時計が示すように、かなりタフなレースとなった。

 ジャパンカップ3着を経て、引退レースとなった有馬記念。影をも踏ませぬ逃走劇を見せ、大歓声の中で有終の美を飾った。年が明けて1月7日の全レース終了後、京都競馬場で引退式が行われた。勝利したレースのウィナーズサークルで恒例となっていた「まつり」を、北島三郎オーナーがサプライズ熱唱してターフに別れを告げた。

 そして引退後は種牡馬となったキタサンブラック。元々良血馬ではなかったため、種牡馬入り後も苦戦を予想する声もあったが、初年度産駒からG1を5勝したイクイノックスを輩出した。種牡馬生活はまだ始まったばかりで、この先さらなる活躍馬の輩出が期待される。

(文●中西友馬)

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